愛知・知多半島のフレンチレストラン「Le coeuryuzu(ル クーリュズ)」。渡邊大佑シェフが地元食材と発酵文化を生かした一期一会の“おまかせ”料理を提供します。ここで、今しかできない食体験を愛知県・常滑でぜひ味わってみてください。
2025.07.29Le coeuryuzuは、愛知県・知多半島に位置する、地元食材を活かしたフレンチレストランです。中部国際空港(セントレア)からタクシーで20分と、アクセスも便利です。

洗練されつつも気取らない雰囲気のこのレストランは、生産者との連携や地産地消を通じて日本の食文化の発展に貢献していることが評価され、農林水産省より「料理マスターズ ブロンズ賞」の受賞歴を持つシェフ、渡邊 大佑氏の過去の経験や地元に対する思いから2017年に誕生しました。
岩手県で生まれ、現在は海と山の恵みに囲まれた知多半島で暮らす渡邊シェフ。質の高い地元食材に触れてきたため、地域ごとの味の違いを自然と舌で感じ取れるようになりました。豊かな自然に囲まれた環境は、料理への関心を芽生えさせるきっかけになり、自ら釣った魚を調理しようとしたことが、やがて料理人としての道を歩む原点となりました。

Le coeuryuzuのすぐそばに広がる伊勢湾の海辺は、渡邊シェフにインスピレーションを与えるとともに、訪れるゲストにも食事前に知多半島の自然と触れ合うひとときを提供してくれます。
渡邊シェフは名古屋の老舗フレンチレストランでの修業を経て、結婚式場やレストランでの経験と独学によって、伝統的なフランス料理に地元の食文化の要素を融合させた独自のスタイルを築き上げました。
その料理哲学は、「地産地消」の考え方に深く根ざしています。可能な限り地元の食材を使用し、その日その時だけの“一期一会”の料理体験を提供すべく日々挑戦を続けています。
カウンター越しのオープンキッチンでゲストと向き合いながら仕上げられる料理も、このレストランならではの魅力です。
使用される食材の90%以上は、渡邊シェフが長年の信頼関係を築いてきた地元の生産者から仕入れた旬のものばかり。また、器やテーブルウェアに至るまで地元常滑の常滑焼の職人とシェフが共同でデザインした特注品を用いるなど、細部にまで知多半島らしさが息づいています。
愛知県、特に半田・武豊エリアは、日本有数の発酵文化の拠点としても知られています。渡邊シェフはこの地域に根差した発酵文化を巧みに取り入れ、たまり醤油、酢、みりんといった和の発酵食品に加え、自家製ヨーグルトや豊橋バターなど洋の発酵食材も取り入れたコースを構成しています。


渡邊シェフは、妻の香奈さんとともに、2017年にLe coeuryuzuをオープンしました。
今回、渡邊シェフから発酵文化への想いや、地元の個性的な食材をどのように料理に昇華させているのか、その背景についてもお話を聞くことが出来ました。
「地産地消」というコンセプトには、どのような想いが込められているのでしょうか?その考え方の背景や、具体的にどのように料理に反映されているのか、教えてください。
「地産地消」の本当の意味は、この地域で育まれたすべてのもの——水、空気、土壌、そして食材——をひとつの食事に集約することだと思っています。そうすることで、本当の“食の相性”が生まれるんです。料理の意味は、その土地ならではの美味しさから生まれるものだと思いますし、それはつまり、かつて私たちが、自分たちの土地で育ったものを当たり前のように食べていた時代への回帰でもあると感じています。
ここでは、季節ごとに外の香りが変わります。その季節特有の空気の香りが、子どもの頃のその時期の記憶や食べた料理を思い起こさせます。ふと「そうだ、この季節にはさんまを食べていたな」と思うこともあります。
それはすべて、土地の雰囲気や季節感と深く結びついているのです。

渡邊シェフはほとんど独学で料理を学び、主に地元の食材を使っているそうですが、ご自身の料理のスタイルをどのように表現しますか?
フランス料理の伝統は学び、修行してきましたが、私がつくる料理は知多半島料理だと考えています。
知多半島の外、あるいは日本国外の珍しい食材を料理に取り入れたいと思うことはありますか?
いつもその衝動はありますね(笑)。でも、そう思うたびに「だったら東京やフランスで店を開けばいいじゃないか」と自分に言い聞かせます。
ここで作りたいのは、この場所だけで味わえる、地元の食材を使った料理です。一度その覚悟を決めたら、外からの食材はもう必要ないと気づきました。
食材に制限があることこそが、料理に意味と目的をもたらします。その意味を守りたいと思っています。何でも自由に使えたら、逆に何をしたいのか決められなくなるかもしれません。だからこそ、制限があることで創造力がかき立てられるのです。
でも、ここには豊富な食材の選択肢があります。知多半島は海に近いこともあり、イタリアに似ていると言われることも多く、オリーブなどのイタリア野菜もよく育ちます。今夜のメニューのアーティチョークも自分の畑で育てたものです。そして、名古屋の半額ほどで手に入る魚も多く、食材の豊かさと質の高さには本当に恵まれています。だからこそ、この土地ならではの料理がつくれるのです。
発酵(はっこう)とは何を指すものだと思いますか?
日本には大きく分けて2つの異なる発酵文化があると思います。
ひとつは、厳しい冬の間に食材を保存し生きていくためという理由から生まれた、山間部の発酵食文化です。そこでは多様な「発酵物(はっこうぶつ)」が発展しました。
もう一つは、現在の愛知県で発展した発酵食文化で、商品を江戸(現在の東京)に持っていき、売って、生きるための、生活するためのお金を得るために生まれたものです。なきゃないでもいいけど、あったら料理や生活をよりよくしてくれるものであることが特徴だと思います。
Le coeuryuzuのメニューを考える際、まず料理のアイデアから考えるのか、それともインスピレーションを受ける食材を先に探すのか、どちらですか?
どちらもあります。例えば、地元の白醤油や伝統的な地元野菜を使いたいと思って、それを中心に料理を考えることもあれば、逆に料理のイメージが先にあって、そこに特定の食材を加えることで完成することもあります。
若い頃は、名古屋や大都市にいたら、まず作りたい料理を決めて、それに合う食材を探すスタイルでした。でも今はほとんど逆で、一番美味しい旬の食材を見つけて、それを生かすために最低限の技術を使う形です。これを始めたのは30代の頃で、今は46歳です。当時は料理の見た目を美しく作ることはできましたが、心が動くものではありませんでした。自分もお客様も感動できる料理を作りたいと思ったのです。
現在、日本では海外からの旅行客による観光ブームが起きていますが、もし著名人やインフルエンサーがLe coeuryuzuの料理を投稿して大きな話題になったら、どのように感じますか?
それは私の一番の悪夢ですね!(笑)あまり自分に注目が集まるのは望んでいません。
ですが、知多半島の魅力――お店や文化、歴史――をもっと多くの人に知ってもらい、訪れてもらいたいとは思っています。つまり、Le coeuryuzuは観光案内所のような役割を果たしたいと思っています。
ここで食事をして、「明日はあそこに行ってみよう」と、この地域を本当に知りたいと思う人を引きつけたい。海外からでも日本国内からでも、この土地の価値を大切に思ってくれる人たちで満たしたいんです。
ガイドブックに載ったり評判になったりして有名になることにはあまり興味がありません。来てくださる方には、「また来よう、次は知多半島の他の場所にも行ってみよう」と思ってほしいんです。
「ル クーリュズ」のある日のメニューを詳しく紹介します
私たちが訪れたのは5月の末、提供された料理は、新緑のようにみずみずしく、鮮やかな緑が印象的でした。ただ、シェフによれば、その季節に地元で採れる食材を使ってお料理を作るので季節によっては茶色が多かったり、鮮やかではないこともあるといいます。それは渡邊シェフが“旬”や“地産地消”の理念に忠実であることが、料理からも伝わってきます。お料理の見た目、味から季節を感じる体験は他ではあまりできることではないですよね。

前菜
常滑市からほど近い南知多町産のエディブルフラワーが添えられたズッキーニのムース。私が訪れたのは初夏だったので、少しずつ気温も高くなってきていました。だからこそ一口味わうとその冷たさとズッキーニの香りの爽やかなコンビネーションが涼しい風をもたらしてくれたような感覚になりました。また、お料理に使われる食材は地元の食材を使用していることから、一口一口、その食感や香りで食材のフレッシュさを口いっぱいに感じます。

卵料理のファーストディッシュ
地元常滑でお米を食べて育った鳥の卵を使用しており、本物の卵の殻の中には海苔のピューレが入ったスクランブルエッグと酢で酸味のアクセントを効かせたサバイヨンソースを添えられています。注目すべきはその提供スタイルです。”お米を食べて育った”というストーリーを料理で伝えるため、7色のお米を敷き詰めたお皿の上に卵の殻を置いて提供しています。料理の一皿一皿に料理に宿る「物語」を伝えるシェフのこだわりから、シェフの地元への愛が感じられました。

芸術作品のようなアーティスティックなお皿で提供された二皿目
地元の生食用のそら豆に常滑牛乳から作ったチーズとたまり醤油をパウダーにして、さらに知多半島産のオリーブで作られたオリーブオイルをかけた一品。常滑のお隣、武豊町にある中定商店のたまり醤油をパウダーにすることで、たまり醤油の濃く深い旨味がさらに香り高く感じられ、食材の素材の味を引き立てています。

料理とお皿の色のコンビネーションが美しい三皿目
アジとアスパラガスにフィンガーライムキャビアと塩カボスを添えた一皿。
私も今回の取材で初めて出会った、オーストラリア原産の柑橘類で、非常に珍しい食材であるフィンガーライム。細長い形をしており、果肉は小さな粒状になっていて「シトラスキャビア」とも呼ばれるそうです。プチプチとした食感とさわやかな酸味が特徴で、料理のアクセントになっています。渡邊シェフは、この日本では特に珍しい食材をなんとInstagramでたまたま見て、愛知県豊橋市の農家さんが作っていることを見つけたのだとか。シェフの食への探求心が感じられるエピソードが印象的でした。

シェフの所有する畑で採れた野菜が主役の一皿
ロメインレタス、シェフの畑で収穫したアーティチョーク、ニンニクの芽の天ぷら、生のカブに浜大根とハマボウフウのピクルスを添えたお料理。浜大根とハマボウフウはシェフが近くの常滑の海岸で採ってきたもので、生産者を介さずシェフの手によって直接採取した”本当に”地元の素材が詰まった一皿になっています。

お肉を使ったメイン料理
ほろほろ鳥のルラード(鶏もも肉で砂肝、肝臓、心臓を包んで焼き上げた料理)をカレー風味のソースで頂きます。鳥のいろいろな部位を一度に味わうことができるので食感の違いを口の中で楽しめる一品です。エキゾチックなカレーの香りとお肉の油は抜群の相性でした。

デザート
レモンマートル風味のブーランマンジェに梅のジェリーと自家製のヨーグルトアイスクリームを添え、そこに砕いたクッキーとナッツをトッピングした一皿。
爽やかかつ濃厚、クリーミーな味わいのブランマンジェとアイスクリームに強い酸味のアクセントを加える梅ジェリーがとても絶妙。一皿の中でそれぞれの構成要素が絶妙なバランス感で組み合わされたこれまでに味わったことのない、まさに申し分のないデザートでした。

地元常滑で焼かれた常滑焼の茶器


お茶とお茶菓子でコースを締めくくります。
二度とない、日ごとに変化する、新たな料理を生み出し、提供しているLe coeuryuzu。
そんな、Le coeuryuzuで唯一変わらずに提供されているという愛知・西尾の抹茶をクレープ生地に入れ、焼き上げたクレープボールと地元常滑産の煎茶。洗練されたお料理である一方、意外にもどこの家庭にもあるたこ焼き器で焼き上げて提供されるクレープボールはもっちり、しっとりとした食感が他にはなく、その食感がどういうわけか不思議と抹茶の香りを引き立てます。煎茶もほんのりと香る、茶葉の甘味が優しく、心温まるひと時となりました。
革新的で新しい料理を追求し続けるLe coeuryuzuで、変わらずに大切にされている“温かなもてなし”が、この一皿にも表現されているように感じました。

食事中には美味しい自家製パンも提供されました。パンはパートナーの渡邊香奈さんによって作られるもので、愛知・豊橋で作られているバター、自家製ヨーグルト、愛知県の小麦粉など、地元産の素材を使用して作られています。表面はサクサク、中は絶妙なしっとり感で芳醇なバターの香りがありつつもすっきりとした味わいが特徴的です。

Le coeuryuzuの裏手に広がる夕暮れ時の伊勢湾。
まとめ

Le coeuryuzuでは、ゲストの目の前で渡邊シェフが「おまかせロカヴォア(地産地消)」の料理をリアルタイムで仕上げていく様子を楽しむことができます。使用される食材はすべて、シェフが長年信頼を寄せる地元の生産者から厳選したものか、自身の畑や最近の旅先での出会いから自ら仕入れたものばかりです。
提供されるお料理は、彩り豊かで美しく盛りつけられた、毎回異なる一期一会のコース。変わらないのは、シェフとパートナーの香奈さんが息を合わせて料理を運び、初めて訪れるゲストにも常連のお客様にも、自然な会話で暖かくおもてなしをしてくれることです。
ここでしか味わえない、心のこもった唯一無二の食体験―それがLe coeuryuzu、そして知多半島ならではの魅力なのです。
Le coeuryuzuは完全予約制です。席数に限りがあるので、こちら(ページ内で言語切り替え可能です)から早めに予約をすることをおすすめします。