名古屋・四間道の歴史ある街並みに佇むレストラン「MEI」。中部地方の厳選食材を使ったイタリアンのコース料理と、地元産ワインとの極上のペアリングを楽しめます。
2026.08.13名古屋で楽しむ特別なダイニング体験

名古屋駅からほど近い円頓寺商店街の先には、名古屋屈指の風情ある街並みが残る「四間道(しけみち)」があります。かつては水運の要所として栄え、三河湾から続く海運ルートと名古屋の中心部を結ぶ物流・商業の拠点として発展しました。
現在では、全国各地から運ばれてきた品々が取引されていた歴史ある土蔵が、地域の歴史や趣を生かしたレストランやカフェ、ギャラリーへと生まれ変わっています。
そんな四間道の歴史を受け継ぐ一軒が、レストラン「MEI」です。かつて良質な品々が集まる場所だったこの地の伝統を受け継ぎ、愛知・岐阜・長野・三重をはじめとする中部地方の豊かな食材を主役にしたコース料理を提供。地域の恵みを一皿一皿に昇華し、まるでアートのような美食体験へと誘います。
MEI─海・畑・山の恵みとワインが織りなす至福のペアリング

MEIでは、三河湾・伊勢湾で水揚げされた新鮮な魚介をはじめ、岐阜県や長野県・木曽エリアのジビエや山菜など、中部地方の豊かな食材を生かしたイタリア料理を提供しています。
レストランを営むのは、シェフの高畑邦暢さんと、ソムリエの高畑かほりさん夫妻です。

千葉県出身の高畑シェフは、日本のイタリア料理店で経験を積んだ後、本場イタリアへ渡って腕を磨きました。帰国後は東京・横浜・名古屋のレストランでの経験を経て、2009年に独立します。
現在の料理のスタイルを形づくる大きな転機となったのは、名古屋の中央卸売市場で約1年間働いた経験でした。鮮魚の旨みを最大限に引き出す地元ならではの技術に感銘を受け、中部地方の食材とイタリア料理の技法を融合させるという現在のスタイルを着想したといいます。

ソムリエの高畑かほりさんも料理人としての経験を持ちつつ、2018年にソムリエ資格を取得して以降は、料理とワインのペアリングを追求する道へ進みました。
2021年に名古屋・四間道でオープンしたMEIの大きな特徴の一つが、夫妻自ら自然の恵みを採取することへのこだわりです。春には山菜、夏から秋にかけてはきのこを求めて山へ入り、高畑シェフは狩猟免許を取得し、キジやカモなどの野鳥を自ら狩猟しています。
魚介は信頼する卸業者から、野菜は契約農家から仕入れていますが、MEIを象徴する味わいの多くは、岐阜や長野の山々で夫妻自身が採取・狩猟した食材によって生み出されています。季節ごとに山で過ごす時間そのものが、MEIならではの料理を形づくっているのです。

料理に寄り添うのは、長野や愛知の個性豊かな地元ワインに加え、ブルゴーニュやイタリアから厳選したワインの数々。土地の恵みを生かした料理との絶妙なペアリングが、MEIならではの特別なダイニング体験を演出します。
MEIで味わう、中部地方を巡る美食の旅

MEIはディナー営業のみで、18:20から入店が始まり、コースは18:30に一斉スタートします。一皿一皿を目の前で丁寧に仕上げるため完全予約制となっており、時間どおりの来店が推奨されています。
店内はカウンター6席のみ。シェフの繊細な手仕事を間近で眺められる特等席です。木の温もりを感じる落ち着いた空間で、ゆったりと食事を楽しめます。
ドリンクを注文する際は、ぜひソムリエの高畑かほりさんに相談してみてください。メニューは日々、季節のわずかな移ろいに合わせて変わるため、それに寄り添うワインのペアリングも常に変化しています。

私たちが訪れた日のコースは、すりおろしたキュウリのペーストの上に鱧(はも)を合わせた一皿から幕を開けます。味付けは柿酢をほんの一滴加えたのみ。やさしい酸味と深い旨みが、鱧の繊細な味わいを引き立てます。
この爽やかな前菜に合わせられたのは、豊田市にある「風の丘ワイナリーAZZUCA e AZZUCCO」のソーヴィニヨン・ブラン。山野に自生するハーブを思わせる香りが、鱧の持つ海の風味を美しく引き立てます。山と海、それぞれの恵みが調和するこの一皿は、MEIならではの発見に満ちたコースの幕開けにふさわしいものでした。

その後も、「山と海」をテーマにした料理が続きます。まず登場したのは、岩牡蠣とナスのグリル。夫妻が自ら採取したキクラゲを使った濃厚なソースが添えられています。続いて、スッポンとワラビを合わせ、鮮やかなバジルソースで仕上げた一皿が提供されました。この料理には、長野県安曇野市の軽やかなロゼワインをペアリング。爽やかな酸味がスッポンの濃厚な旨みを心地よく引き締めます。

次に登場したのは、夫妻が飛騨の山で採取した「山うど」を使ったリゾット。枝が付いたまま厨房へ運ばれた山うどを、シェフが目の前で丁寧に下処理し、食べられる茎や葉だけを料理へと仕上げていく様子も印象的でした。

アサリの出汁で炊き上げたリゾットは、豊かな旨みが凝縮された味わい。長野県松本産のクリーミーなチーズが、その風味をさらに引き立てます。
山うどは日本では春を代表する山菜として親しまれていますが、私たちにとっては初めて出会う食材でした。爽やかで土の香りを思わせる風味がリゾットに奥行きを与え、海の恵みと山の恵みを調和させるMEIの料理の真髄を感じさせてくれる一皿でした。

コース終盤のメインディッシュも印象的でした。北海道産の上質なジャージー牛と、蝦夷鹿肉のどちらかを選ぶことができます。絶妙な火入れで焼き上げられた肉料理には、長野県・東山ワイン研究所合同会社の作る赤ワイン「Experience」をペアリング。深みのあるエレガントな味わいが、コースの締めくくりにふさわしい余韻をもたらします。
コースを味わい終える頃には、まるで中部地方を旅しながら、その土地ならではの希少な食材や思いがけない味わいとの出会いを重ねてきたかのような気分になっていました。

デザートは、愛知県らしさを感じられる一皿。キャラメリゼしたイチジクに、なめらかな酒粕アイスクリームを合わせています。実は愛知県は、甘く品質の高いイチジクの名産地としても知られています。
また酒粕は、この地域に根付く発酵食文化を象徴する食材です。高畑シェフはコース全体を通して、地元の酢やみりんなどの発酵調味料を「名脇役」として巧みに取り入れていますが、このデザートでは酒粕が主役となり、発酵が持つ豊かな香りと奥深い味わいを存分に堪能できました。高畑シェフの手によって、発酵調味料は食材本来の美味しさをそっと引き立てます。濃い旨みを求めて料理に赤味噌のソースを合わせることもあれば、お肉のソースに浜納豆(半乾燥タイプの発酵大豆)を添えて味わいにアクセントを加えるなど、その活かし方は様々です。
酒粕のアイスクリームだけでなく、コースの随所に自家製の発酵食材が取り入れられていました。中でも印象的だったのは、高畑夫人が誇りを持って自ら仕込み、振る舞ってくれた自家製のコンブチャです。また、そら豆から自家製の豆板醤(発酵させた唐辛子味噌)を作ることもあります。旨みと辛みが凝縮したこの発酵調味料は、料理の魅力をさらに引き出す最高の引き立て役です。発酵食文化の地として名高いこの地域で腕を振るう高畑シェフたちにとって、こうした発酵食材を料理に用いることは、ごく自然なことに感じられます。
彼にとって、チーズやワインといった西洋の発酵文化と日本のそれを分かつ決定的な要素は「麹」です。米文化と深く結びついたこの古来の菌は、食材本来の旨味を引き出し、料理の可能性を大きく広げてくれます。MEIでの食事は、発酵がいかに私たちの日常に寄り添っており、日々の暮らしの中でいかに当たり前のように支えられているかを、優しく思い出させてくれるものでした。
夫婦二人三脚で紡ぐ、唯一無二のコース料理

MEIで最も印象に残るのは、高畑夫妻の息の合った連携です。食材選びからそれぞれの一皿に寄り添うワインのセレクト、さらに料理を美しく引き立てる器選びに至るまで、そのすべてが二人でつくり上げられています。コースで使われる器は、日本各地で作られた一点物ばかり。一皿一皿をまるでアート作品のように彩ります。
高畑シェフが料理に集中する一方で、ソムリエのかほりさんはゲストとの会話を楽しみながら、それぞれの料理に込められたストーリーを丁寧に紹介します。しかし、二人の間に言葉はほとんど必要ありません。互いの動きを自然に理解し合う息の合ったチームワークは、料理の中で海と山の食材が美しく調和する様子にも通じています。

高畑シェフの料理のベースにあるのは、イタリア料理の確かな技法です。しかし、自ら採取・狩猟した土地の恵みを取り入れることで、その料理は既存のジャンルにとらわれない唯一無二の一皿へと昇華されています。それでもシェフが何より大切にしているのは、「美味しい料理を届けること」。複雑なコンセプトを前面に打ち出すのではなく、純粋に料理のおいしさを追求する姿勢が、MEIの魅力につながっています。

シェフ自ら採取した食材は、これまでにない全く新しい味わいを届けてくれます。実際に山へ入り、自然の中から食材を集める料理人は決して多くありません。
季節ごとに山を訪れ、狩猟や採取を重ねる高畑夫妻だからこそ、山々が育んだ自然の恵みを、そのまま一皿へと映し出すことができます。MEIでの食事は、これまで知らなかった日本料理の新たな一面に出会う体験でもあります。

今回の取材の中でもう一つ印象的だったのが、日本のワインの奥深さです。愛知県は古くから酒造りで知られていますが、実は個性豊かなワインも数多く生み出しています。一方、長野県は日本最多のワイナリー数を誇り、生産量でも山梨県を上回る、日本を代表するワイン産地へと成長しました。質の高い長野ワインは、MEIの料理とも見事に調和しています。
こうした発見の数々は、中部地方の食文化を映し出す一つの窓ともいえるMEIだからこそ味わえるものです。ここでの食事は、思いがけない食材や味との出会いを通して、日本の食文化の奥深さと豊かさをあらためて感じさせてくれるでしょう。
まとめ
MEIは、名古屋駅から円頓寺商店街のレトロな街並みを歩いた先にある、歴史ある那古野エリアにあります。周辺には、江戸時代の面影を残す建物や石畳の路地が続く四間道が広がり、散策にもぴったりです。
風情ある街並みをゆっくり歩いた後は、MEIで特別なディナーを。名古屋で過ごす夜を、忘れられないものにしてくれるでしょう。