武豊町は、寿司や魚介類によく合う、濃厚なうま味の醤油「たまり」の名産地。地元で有名な中定商店で、その製造工程を見学してみましょう。
2025.08.12武豊町の特産 濃厚たまり醤油
名古屋を越えて愛知を巡る旅の醍醐味は、各地で出会える美味しい発見にあります。その存在すら知らなかった新しい発酵食品に出くわすかもしれません!濃厚で独特な風味を持つ八丁味噌や、繊細で万能な白醤油は、どちらも日本では有名です。
ところで、醤油といえば、その多様さにはきっと驚かされるはずです。作り方や原料をほんの少し変えるだけで、まったく異なる風味が生まれます。
今回は、寿司や刺身にかける醤油として、愛好家の間でよく名前が挙がる「たまり醤油」を取り上げます。この驚くほど濃厚な醤油がどのように作られているのかを知るには、武豊町にあるたまり醤油の蔵・中定商店を訪れるのがおすすめです。
たまり醤油と普通の醤油は何が違う?

中定商店の蔵の魅力に迫る前に、たまり醤油が普通の醤油とどう違うのかを簡単に説明しましょう。
一般的な醤油の基本原料は、大豆と小麦です。これらを麹にして、塩水と混ぜ合わせ、1年間発酵させて作られます。小麦は醤油に独特の香りを与えます。
一方、たまり醤油は大豆と塩水だけで作られます。蒸した大豆を丸めて、表面に麹菌をつけて2日間繁殖させて豆麹を作り、塩水と混ぜ合わせ、大きな木製の桶に入れ、川辺の石で蓋をし、3年間発酵させて完成させます。

この発酵させている間、石で圧をかけられたもろみ(豆麹と塩水が合わさったもの)からにじみ出る液体が桶の中に設置された「筒(下部に穴が空いている)」の中に溜まります。その液体を写真のように柄杓を使って、重石の上からもろみに何度もかける作業工程を「汲みかけ」と呼びます。これを1つの桶につき1日40回ほど行い、もろみの中を液体が循環するようにすることで、風味とコクを格段に高めているのです。
つまり、たまり醤油は普通の醤油と原料だけでなく、その作られ方も異なります。この手間のかかる製法こそが、たまり醤油を希少価値の高い醤油にしているのです。塩分はわずか15%で、まろやかな風味と濃厚なうま味が生の魚介類の味を引き立てるので、寿司や刺身、海鮮丼などにぴったりです。
中定商店: 1879年創業の味噌・醤油の老舗

中定商店の起源は明治初期(1868年〜1912年)に遡ります。当時、鉄道や港湾のインフラが拡大していたこの地域は、地元の製造業が栄えるための十分な環境がありました。
1879年、初代中川定平が、温暖な気候と清らかな水から優れた味噌とたまり醤油ができると信じて、最初の工場を設立したのがはじまりでした。大正、昭和の時代も一貫して高い品質基準を維持し、中定商店の名声を確固たるものにしました。

中定商店は2005年以来、味噌を使った料理教室を開催し、味噌の様々な使い方に関する有益な情報を広めています。また、農林水産省総合食料局長から優秀賞を2度受賞しています。
中定商店の蔵見学では、たまり醤油の製造工程を見学することができ、香り高い、味噌や醤油が仕込まれた木桶がずらりと並ぶ様子には、驚くことでしょう。また、隣接するお店では醤油や味噌を直接購入することもできますし、これらの食材を使ったお菓子やクッキーも買うことができます。
さらに、中定商店の「醸造伝承館」では、昔の蔵で使われた道具や工芸品を展示しています。ここでは、たまり醤油の特徴を学ぶだけでなく、歴代の作り手の創意工夫を鑑賞することができます。
伝承館:歴史ある展示物から見学をはじめてみましょう

伝承館では、中定商店の歴史ある品々が展示されています。蔵で使用されていた様々な器具、古い写真、新聞記事の切り抜き、ポスターなどを見ることができます。
中川社長の友人の画家が描いた原画が、味噌とたまり醤油の製造工程を視覚的に説明してくれます。

2階には、かつてたまり醤油を味噌から圧搾するのに使われた、石を取り付けた木製の仕掛けなど、古い道具が展示されています。説明を受けながら、ロープと吊り輪を使って自分で重りを引いてみることもできますよ。

また、明治から昭和にかけての事業の歴史を辿るのに欠かすことのできない古い記録もあります。伝承館は、武豊の豊かな発酵の伝統を垣間見ることができる場所です。
蔵を見学: 150年前の木桶に驚く

他の発酵の施設と同様に、中定商店では原料を蒸したり、麹と混ぜたりする最初の工程は見学者が立ち入れない区域で行っています。これにより、ホコリや不要な微生物が発酵工程に影響を及ぼすリスクを最小限に抑えています。
醤油と味噌を大きな容器で発酵させる蔵は、この施設の中で唯一立ち入りが許される場所になっています。一歩足を踏み入れると、濃厚な味噌の香りが漂い、薄暗い迷路のような空間に巨大な木製の容器が並んでいます。ここでは時間がゆっくりと流れ、大切な何かが静かに熟成しているかのように感じて、自然と声が小さくなります。発酵は、そもそも微生物の働きによるプロセスであり、蔵の中では、その微生物たちが素材を少しずつ旨味たっぷりの調味料へと変えていく様子を、肌で感じることができます。

中川さんによれば、たまり醤油と味噌の豊かな風味の秘密は、明治以前この地方で操業していた酒蔵から受け継いだ杉でできた桶にあるといいます。
金属を一切使わず、木組みの技術だけで作られたこれらの桶は、有益な発酵菌にとって理想的な環境を提供しています。そのため完全に作り替えられることはなく、表面を削ってから再び組み直すことで使い続けられています。つまり、150年もの間、同じ桶が使われ続けているのです。
このような桶を作れる職人は今やごくわずかですが、ここで造られる味噌やたまり醤油の独特の風味には欠かせない存在です。
中川さんはこう語ります。「発酵は、微生物との共同作業なんです。」

少人数で訪れれば、「汲みかけ」の作業を体験できるかもしれません。これは、たまり醤油を桶の下からすくい、もろみの上に何度もかけ戻すという工程です。桶の中を上からのぞく光景は圧巻で、熟成中のたまりの香り、深みのある独特な音、そして職人が代々使い続けてきた木の杓子の感触——五感すべてが刺激されます。「汲みかけ」は、日本の発酵文化の奥深さを肌で感じられる、特別な体験です。
たまり醤油を味わうためにお店を訪れてみましょう

蔵を見学して、たまり醤油が熟成していく様子を間近で見たあとは、きっとその味を確かめたくなるはずです。

中定商店の店舗にもぜひ立ち寄ってみてください。たまり醤油や「宝山(ほうざん)味噌」の全ラインナップはもちろん、これらの調味料を使ったクッキーやせんべいなどのお菓子も揃っています。

試食コーナーも見逃せません!ここでは、うま味の程度と風味が異なる4種類のたまり醤油を味わうことができます。それぞれの微妙な風味の違いを楽しみながら、お気に入りの一本を見つけてみてください。

この記事を書いた私にとって、武豊町の中定商店を訪れて見つけた「幻蔵(げんぞう)」という、最も濃厚なたまり醤油が今回のハイライトでした。
この濃厚で絶妙なバランスの醤油は、原料から生まれるほのかな甘みがあり、特に生の魚介類、寿司や刺身(わさびを少し添えて)にぴったりだと感じています。他の醤油が煮物に向いているのに対し、たまり醤油は生の魚介の味を引き立てる真骨頂と言えるでしょう。皆さんも愛知を訪れて、このような新たな食の発見に出会えることを願っています!
まとめ
中定商店は、JR武豊駅から徒歩約5分の便利な場所にあります。武豊駅へは、名古屋駅や中部国際空港 セントレアから電車で約1時間でアクセスが可能です。
ぜひこの施設を訪れて、驚くほど旨味豊かなたまり醤油の製造過程を見学してください。その後は、こちらでご紹介している武豊町のモデルコース内にある「ゆたか寿し」など、地元の飲食店でたまり醤油を使った料理を味わうもおすすめです。