名古屋のフレンチ割烹さゝでは、愛知・岐阜・三重の地元食材を生かしたランチは12皿、ディナーは20皿のフュージョンコースを楽しめます。熟練の技で仕上げられた料理をご堪能ください。
2026.07.31名古屋の食文化を、より深く知る
名古屋は「食の都」と称されることも多く、その理由は一口食べれば納得できるでしょう。名古屋の名物鰻料理ひつまぶしや、きしめん(通常のうどんより薄くて幅が広い麺料理)、さらには味噌カツ(味噌ソースをかけたとんかつ)などの濃厚な味噌料理まで、「名古屋めし」を代表する名物料理が数多くそろっています。
しかし、こうした人気の郷土料理の奥には、長い歴史に育まれてきた豊かな食文化が息づいています。その食文化を支えているのが、愛知県をはじめとする東海地方が誇る、豊かな農業と優れた生産者たちです。
そんな土地ならではの風土や食文化に触れるには、特別な食体験がおすすめです。名古屋にある「フレンチ割烹さゝ」では、一皿一皿を通して東海地方の物語を味わうことができます。地域の食材と風味を美しく表現したコース料理を、ぜひ堪能してください。
フレンチ割烹さゝ: 東海地方を巡る、洗練された美食の旅

フレンチ割烹さゝは、名古屋市千種区の今池駅から徒歩数分の場所にあります。2018年10月にオープンしたこのレストランは、地元・名古屋出身の仙田巧シェフが、「東海3県地産地消少量多皿」の理念のもと、地域食材の多様な魅力と質の高さを伝えることを目指して開業しました。以前は、市内の高級ホテルでフランス料理のシェフとして長年経験を積み、その腕を磨いてきました。

さゝでは、東海地方の愛知県・岐阜県・三重県で採れた食材を使用した、ランチ12皿、ディナー20皿のおまかせコースを楽しめます。海の幸や山菜をはじめ、野菜、果物、肉、発酵食品まで、すべて信頼のおける地元の生産者から仕入れた食材を使用しています。ランチ・ディナーともに営業しており、名古屋で上質かつ記憶に残る食事を楽しみたい方に最適な場所です。
仙田シェフはすべての料理をゲストの目の前で仕上げるため、店内は少人数向けの落ち着いた空間となっています。予約は前日までに行う必要があります。また、その時季ならではの新鮮な地元食材を提供するため、メニューは季節ごとに変わるほか、農家から届く食材に合わせて日々内容が異なります。なお、完全予約制のため、ご来店の際は予約時間どおりにお越しください。
フレンチ割烹さゝで味わう食体験

フレンチ割烹さゝの店内に一歩足を踏み入れた瞬間、心の中で何かが切り替わるような感覚を覚えます。格子から繊細で柔らかな光が差し込む和の空間と、料理へ自然と視線が向かうよう計算された落ち着いた照明が、これから始まる特別な食体験への期待を高めてくれます。

仙田シェフは温かくゲストを迎え、まずはドリンクのオーダーを取ります。ワインや日本酒の充実したラインナップに加え、メニューにはクラフトコンブチャ(甘みを加えた紅茶や緑茶を発酵させて作られる、さわやかな発酵飲料)も用意されています。
名古屋市千種区の醸造所「Plus Kombucha」が手がけるこの発酵飲料は、ローズヒップやベルガモット、オレンジピール、ローズなど、洗練されたフレーバーが特徴です。料理の味を邪魔することなく口の中をすっきりと整えてくれるため、名古屋の高級レストランでも人気のペアリングとして親しまれています。
ゲストの手元にドリンクが行き渡ると、仙田シェフはすぐに調理へと取りかかります。目の前で料理を仕上げるその姿からは、料理に向き合う強い集中力と情熱が伝わってきます。

私たちが訪れたのは6月上旬だったため、おまかせコースは初夏の味覚を中心に構成されていました。
最初の一皿では、碧南産のヤングコーンが2種類の調理法で提供されます。自家製チーズと共に味わう冷製コーンスープと、春巻き仕立てにしてカリッと揚げたヤングコーンです。旬の始まりに収穫された若いトウモロコシは、自然な甘みと凝縮された豊かな風味に驚かされました。
添えられていたのは、3年間熟成させたたまり醤油で知られる武豊町の「たまり粕」を粉末状にしたものです。たまり粕とは、醤油を搾った後に残る副産物のこと。仙田シェフは、このような個性的な副産物を料理のアクセントとして取り入れ、一皿の味わいを思いがけない方向へと広げることを好んでいると話してくれました。
この料理を通して紹介されたのが、仙田シェフがコース全体に巧みに取り入れている日本料理の考え方、「走り・旬・名残り」です。これは、食材が旬を迎える少し前の「走り」、最もおいしい時期である「旬」、そして季節の終わりを迎える「名残り」という3つの段階で季節を味わうという考え方です。
碧南産のヤングコーンは、この日のコースにおける「走り」を象徴する食材でした。これから本格的に訪れる夏を、一足早く感じさせてくれる一皿です。

二皿目は、思わず息をのむような一品でした。師崎産のアジを4日間熟成させて旨味を最大限に引き出し、目の前で瞬間燻製にします。燻煙に当てる時間はほんの数秒ですが、香りは魚全体にしっかりと行き渡り、豊かな燻香が玉ねぎのピクルスソースと見事に調和していました。
伊勢湾と三河湾で獲れる地元の魚介を使いながらも、「完全な生では提供しない」というフランス料理の考え方を大切にしている点にも、仙田シェフのこだわりが表れています。

常滑産の米で育てた鶏の卵を使ったなめらかなフラン(洋風な茶碗蒸し)と、香り豊かな碧南産ニンジンを使ったスフレに続いて登場したのは、豚肉のテリーヌです。
この料理には、豊田産の菊芋のピクルスと、豊橋名物である、栄養価の高い発酵食品、浜納豆が添えられていました。それらとともに味わうことで、わずか30分ほどの間に、発酵文化が根付く愛知県各地を巡る旅をしているような気分になります。
その味わいは、筆者にプルーストの『失われた時を求めて』に登場するマドレーヌを思い起こさせました。味には、遠く離れた風景や記憶、旅先で出会った人々の顔を呼び起こす力があります。
フレンチ割烹さゝでの食事は、それらの地域を実際に訪れたことがある人にとって、より深い体験となるでしょう。各地の風味や文化が、一つの花束のようにここへ集められているからです。これらの生産地の多くは名古屋から30分〜1時間ほどで訪れることができるため、機会があればぜひ実際に生産者のもとを訪ねてみることをおすすめします。

もう一つ忘れられない一皿が、碧南産の新玉ねぎです。常滑の陶芸文化を象徴する生の陶土で包み、じっくりと焼き上げます。
何の前触れもなく、テーブルに二つの土の塊が置かれ、その場で割られると、中から湯気を立てる包みが現れました。仙田シェフが丁寧に包みを開くと、200℃でじっくり焼かれた玉ねぎが姿を現します。

陶土に包まれ、玉ねぎ自体が持つ水分で蒸し焼きにされることで、玉ねぎは土のミネラルを吸収し、普通にゆでただけでは得られない、凝縮した旨味をまといます。そして、名古屋で手間をかけて天日干しで作られた希少な塩を添えて、繊細なだしとともに提供されました。

続いて提供されたのは、郡上産の鮎のコンフィです。グレープフルーツ、ブラッドオレンジ、ズッキーニ、そしてディルの花を添えた彩り豊かなサラダとともに味わいます。
ここでコースは、食材が最もおいしい時期を表す「旬」の段階へと移ります。

その後も、豊橋産の鴨のロースト、常滑産玄米麺、美浜町産の米に魚介のカレーソースを合わせた一皿など、地元食材を生かした繊細な料理が続き、コースは最後の「名残り」の段階へと進みます。

デザートには、ふきのとうのアイスクリームにオリーブオイルパウダーを添えた一皿が登場しました。
ほろ苦く爽やかな味わいは、高山の山々で採れたふきのとうとともに、終わりを迎えたばかりの春の名残りを感じさせます。

締めくくりには、名古屋産クリームチーズと美浜産ブルーベリージャムを添えた軽やかなベニエ、さらに米粉を使ったフィナンシェとハーブティーが提供されました。
驚きに満ちた数々の料理を味わったあとにふさわしい、やさしく心地よい余韻を残すフィナーレでした。
先ほどまで、何品もの料理を時計仕掛けのような正確さで同時に仕上げていた仙田シェフも、この頃にはすっかり緊張が解け、笑顔で気さくに会話を楽しんでいました。
仙田シェフのキッチンの裏側――フレンチと発酵文化、そして地元の生産者への思い

仙田シェフのおまかせコースでは、フランス料理とゲストの目の前で調理される日本の割烹料理が見事に融合しています。シェフは自身の料理についてこう語ります。
「フランス料理と呼んでいますが、地元の食材を使っているので、自然と“日本のフランス料理”になるんです。」
地元食材へのこだわりについて尋ねると、仙田シェフは、名古屋がさまざまな食材の集まる拠点であることを教えてくれました。愛知県は広大な農地を有し、質の高い野菜や果物の産地として知られています。一方で、山に囲まれた岐阜県や、海産物や良質な米で有名な三重県にも仕入れ先を広げています。この3県から食材を集めることで、東海地方の豊かな恵みを存分に感じられるコースを作り上げているのです。
「それに、この地域には発酵文化もありますからね。」と仙田シェフは続けます。
「東海地方には、歴史や自然環境の中で育まれてきた、とても独自性のある発酵文化があります。それを料理に取り入れることは、自分にとってとても自然なことだったんです。」
仙田シェフは、発酵食品そのものだけでなく、その製造過程で生まれる副産物を料理のアクセントとして活用することも楽しんでいます。例えば、濃厚なたまり醤油を搾った後に残る「たまり粕」や、みりん粕を使って、香り豊かなアイスクリームを作ることもあるそうです。
「味噌や醤油そのものは、扱うのが少し難しいですね。」と笑いながら話します。
「それらを使うと、一気に和食になってしまいます。でも、フランス料理でもチーズのような発酵食品はよく使いますよね。そう考えると、日本の発酵文化を取り入れることは意外と難しくないんです。」

取材中には、新鮮な食材が届く場面にも立ち会いました。仙田シェフがその場で箱を開けると、丁寧に梱包された色鮮やかな食材がカウンターいっぱいに並びます。
「地域のいろいろな農家さんと協力しています。」と仙田シェフは言います。
「常滑の知り合いの農家さんからは週に2回野菜が届きますし、豊田の農園からは予算だけを伝えて、おまかせで旬の野菜を送ってもらっています。箱を開けて何が入っているのかを見るのが毎回楽しみなんです。」
メニューを考える際には、あらかじめ綿密に計画した料理と、その日に届いた旬の食材から着想を得て生まれる即興的な料理、その両方を大切にしているそうです。

「お客様には、農家さんのこともきちんと知ってほしいと思っています。」と仙田シェフは語ります。
「本当においしくて質の高いものを作るには、たくさんの時間と手間がかかります。その努力には、きちんと見合った対価が支払われるべきです。品質と価格の関係について、私たちはもう一度考え直す必要があると思います。そして、自分の体を育むためにも、質の高い食材を意識して選ぶことが大切だと考えています。」
素晴らしい食事の余韻が消えたあとも、仙田シェフの言葉は私たちの心に深く残り続けました。それは、忘れられない食体験を、食や食との向き合い方を見つめ直すきっかけへと変えてくれたのです。
最後に

フレンチ割烹さゝは、ランチとディナーの両方で営業しており、TableCheck、食べログ、または公式ウェブサイト(日本語のみ)から簡単に予約できます。
今池駅から徒歩ですぐという便利な立地にあり、名古屋観光の途中に立ち寄るのにも最適です。特別な食事を楽しんだ後は、活気あふれる今池エリアを散策したり、近くにある古川美術館を訪れたりと、充実した一日を過ごせます。